「慢性上咽頭炎」とは
鼻の奥の「上咽頭」に炎症が起こった状態を指しますが、上咽頭炎の原因としては、まだハッキリと分かっていないことも多く、その中で言われているものとしては下記があげられます。
- 細菌やウィルス感染
- 体の冷え
- 疲労
- ストレス
- 空気の乾燥
- 鼻閉を起こす疾患(アレルギー性鼻炎など)
- 後鼻漏を起こす疾患(副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎など)の影響
- 逆流性食道炎
なお、上咽頭は免疫の役割があり、細菌やウィルスが侵入するとすぐに免疫(リンパ球)が活性化します。吸った空気の最初の関所が上咽頭であり、この免疫応答の関係から「生理的炎症部位」とも言われ、健康な人でも常に軽い炎症を認めています。この炎症がある程度強く(病的な炎症)なり、症状が気になる場合に、治療を行うことになります。この部位に慢性的な炎症が起こると「慢性上咽頭炎」として様々な症状に関与していると言われています。
「鼻がのどに下りる」「朝起きると痰が絡む」「のどがイガイガする」「のどの奥がつまった感じがする」このような自覚症状を長年持っており、耳鼻咽喉科や内科を受診しても「異常ありません」であったり、「痰を切れやすくするお薬を出しておきます」と去痰薬などを処方されても症状の改善に至らない方は意外と多くみられます。
患者さんはのどの奥に違和感を感じるのですが、意外なことにその原因は鼻の奥(上咽頭)にあることが多いのです。
慢性上咽頭炎の症状
慢性上咽頭炎の症状として以下のようなものがあげられます。
(1)上咽頭の症状
上咽頭炎により、「のどの上のほうの痛み」「鼻とのどの間(上咽頭)の痛みや違和感、乾燥感」が起こります。「風邪のひきはじめがいつものどの違和感から始まる」という人は慢性上咽頭炎が背景にあるかもしれません。
また、上咽頭は発声との関連も言われており、上咽頭炎により声の出しにくさ(特にナ行の発声)も起こり得ます。
(2)後鼻漏
上咽頭炎では、上咽頭からの粘液分泌が通常よりも増加し、これがのどへ下りてきます(後鼻漏)。後鼻漏は副鼻腔炎などで起こる場合と、上咽頭炎で起こる場合があります。
後鼻漏が増えると、痰がからんだ感じや咳払い、のどの違和感、つまり感、声の出しにくさも起こります。とくに後鼻漏が色付き(膿性)になっている場合は、鼻の奥がにおう感じや、口臭が気になる場合もあります。
(3)上咽頭炎に関連した痛み
上咽頭炎に関連する痛みとして、のどの痛み(扁桃炎のようなのどの痛み・のどの奥の方の痛みなど)、首のこり、肩こり、頭痛、頭重感がみられます。その他、頬骨のあたりの痛み、耳の下の痛みが起こるといった実際に痛みを感じる部分が異なる症状をみることもあります。
(4)上咽頭の隣接部位への影響
上咽頭と耳の奥(中耳)とは、耳管という管でつながっており、ふだん中耳の換気を行っています。上咽頭炎により耳管の上咽頭側の出口(耳管咽頭口)付近の粘膜や筋肉に異常をきたすと、耳管狭窄症や耳管開放症といった耳管に関連した疾患のもととなり、耳がつまった感じ(耳閉感)や自分の声が響く(自声強調)症状の可能性があります。
他、慢性上咽頭炎から自律神経を介して起こり得る症状として、だるさ(倦怠感)、めまい、睡眠障害(不眠・過眠)、起立性調節障害、記憶力や集中力の低下、下痢・腹痛などの過敏性腸症候群、胃もたれや胃痛、むずむず脚症候群、慢性疲労症候群などが言われています。
慢性上咽頭炎の治療について
口から鼻の奥のBスポットに向かって、咽頭捲綿子という曲がった綿棒に1%塩化亜鉛液をつけて上咽頭に塗ります。この処置は1分ほどで終了します。
これにより現在3つの効果があると言われています。
①薬剤による上咽頭の消炎効果:抗炎症作用による上咽頭の炎症を鎮静化
②瀉血作用:慢性上咽頭炎でみられる上咽頭の高度なうっ血状態は脳の老廃物を脳脊髄液から静脈系への排泄やリンパ流の機能を低下させるであろうことから、これらの改善に寄与すると言われています。
③迷走神経刺激反射:迷走神経が通る上咽頭はEATに伴う迷走神経刺激によりこの治療に伴う様々な症状の改善と密接に関与している可能性があります。
EATの効果はこの3つの機序に大別されており、後鼻漏や頭痛、咽頭違和感、咳、微熱などの改善は主に①と関連します。また、だるさやめまい、睡眠障害などの自律神経障害による症状の改善には②と③の機序が関与します。